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加藤 千明
Comprehensive Nuclear Materials, 2nd Edition, Vol.4, p.528 - 563, 2020/08
使用済み燃料の再処理プラントに使用されるPUREXプロセス法では、核分裂生成物,ウラン,プルトニウムの分離に硝酸が使用される。このPUREXプロセスは、使用済み燃料から生じる酸化性金属イオンを含む高濃度の硝酸溶液を高温で用いられるため、非常に腐食性が高くなる。本解説では、硝酸のユニークな化学的性質を最初に説明する。その次に、沸騰伝達における硝酸における酸化力の発現プロセスを、酸化還元電位と沸騰硝酸の熱力学的モデルを使用して説明する。最後に、再処理環境に固有の腐食挙動と腐食促進メカニズムを、溶液化学の観点から説明する。
井岡 郁夫; 岩月 仁; 栗木 良郎*; 川井 大輔*; 横田 博紀*; 久保 真治; 稲垣 嘉之; 坂場 成昭
Mechanical Engineering Journal (Internet), 7(3), p.19-00377_1 - 19-00377_11, 2020/06
熱化学水素製造法ISプロセスは、大規模かつ経済性の高い水素製造法の候補の一つとして研究開発が進められている。ISプロセスの硫酸を蒸発・ガス化し、熱分解する工程の腐食環境は過酷であり、その環境に耐える機器材料にはセラミックスが用いられている。本研究は、脆性材料であるセラミックスに代わり、表面改質技術を用いて耐硫酸性と延性を兼ね備えるハイブリッド材料の開発を狙いとしている。プラズマ溶射技術とレーザー溶融処理技術の組み合わせより試作したハイブリッド材料試験片は、95%沸騰硫酸中で腐食速度0.01mm/yと良好な耐食性を示した。これは、表面に形成させた高Si濃度の耐食層が硫酸環境で酸化し、接液面にSiO層が生成したためと考えられる。さらに、本技術による容器の製作性を確認するため、溶接部、面取り部、曲面と容器形状要素を有する容器状構造体を試作したところ、表面に形成させた耐食層に剥離等の欠陥は認められなかった。このことから、硫酸に耐食性を有し、容器形状に施工可能な表面改質手法の基本技術を確証した。
佐藤 聡; 和田 裕貴; 柴本 泰照; 与能本 泰介
Nuclear Engineering and Design, 354, p.110164_1 - 110164_10, 2019/12
被引用回数:8 パーセンタイル:66.68(Nuclear Science & Technology)原子力機構ではBWRの沸騰後遷移熱伝達、過渡限界熱流束及びリウェットに関する一連の実験研究を行ってきた。これまでに、異常過渡条件をカバーする実験データベースが開発されており、またリウェット現象における先行冷却の重要性が認識されるようになった。本論文では、原子炉停止機能喪失事象、炉心熱伝達へのスペーサの効果、機構論的モデル開発のための現象の物理的理解に焦点を当て、これまでに得られた主な結果と共に、本研究のアプローチを提示した。
笠原 茂樹; 知見 康弘; 端 邦樹; 塙 悟史
材料と環境, 68(9), p.240 - 247, 2019/09
ステンレス鋼のBWR一次系水中環境助長割れ機構検討の一環として、荷重を付与したCT試験片を290Cの高温水に浸漬し、疲労予亀裂先端近傍の酸化物を観察した。酸化物内層は、Fe, Ni, Crを含むスピネル構造の微細粒、外層はFeOの結晶粒であった。FEM解析によるCT試験片亀裂先端の応力、ひずみ分布との比較より、塑性変形に伴う転位と弾性ひずみの重畳によって酸化物内層の形成が促進されることが示唆された。
瀬川 智臣; 川口 浩一; 加藤 良幸; 石井 克典; 鈴木 政浩; 藤田 峻也*; 小林 昌平*; 阿部 豊*; 金子 暁子*; 湯淺 朋久*
Proceedings of 2019 International Congress on Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP 2019) (Internet), 9 Pages, 2019/05
硝酸ウラニル・硝酸プルトニウム混合溶液から混合酸化物への転換において、マイクロ波加熱脱硝法が利用されている。マイクロ波加熱の効率性及び均質なUO粉末を製造するための加熱均一性の向上を目的とし、塩化カリウム寒天及び硝酸ウラニル溶液のマイクロ波加熱試験、並びに数値シミュレーションによる解析を実施した。硝酸ウラニル溶液の誘電損失に調整した塩化カリウム寒天を用いたマイクロ波加熱試験により、マイクロ波加熱脱硝に最適なサポートテーブル高さは50mmとなることを確認した。また、断熱材を用いた硝酸ウラニル溶液のマイクロ波加熱試験により、脱硝時間の短縮によるエネルギー利用効率の向上及び脱硝体の剥離性が改善による収率の向上を確認した。さらに複数のサンプリング位置において採取したUOについて、いずれも粉末特性が改善し高密度のペレットが作製可能となることが明らかになった。断熱材を設置することで硝酸ウラニル溶液のマイクロ波加熱の均一性が向上することが数値シミュレーションにより示された。
井岡 郁夫; 栗木 良郎*; 岩月 仁; 久保 真治; 稲垣 嘉之; 坂場 成昭
Proceedings of 27th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE-27) (Internet), 5 Pages, 2019/05
熱化学水素製造法ISプロセスは、大規模水素製造法の候補の一つとして研究開発が進められている。ISプロセスの硫酸を蒸発・ガス化し、熱分解する工程の腐食環境は過酷であり、その環境に耐える機器材料にはセラミックスが用いられている。本研究では、脆性材料であるセラミックスを代替し得る、表面改質技術を用いて耐硫酸性と延性を兼ね備えるハイブリッド材料の開発を狙いとしている。プラズマ溶射技術とレーザー溶融処理技術の組み合わせより試作したハイブリッド材料試験片は、95%沸騰硫酸中で十分な耐食性を示した。これは、表面に形成させた高Si濃度の耐食層が硫酸環境で酸化し、接液面にSiO層が生成したためと考えられる。さらに、本技術による容器の製作性を確認するため、溶接部,面取り部,曲面の容器形状要素を有する容器状構造体を試作したところ、表面に形成させた耐食層に剥離等の欠陥は認められなかった。
笠原 茂樹; 福谷 耕司*; 越石 正人*; 藤井 克彦*; 知見 康弘
JAEA-Review 2018-012, 180 Pages, 2018/11
軽水炉の炉内構造物については、構造材料であるオーステナイト系ステンレス鋼の中性子照射による経年劣化を評価・予測した上で、健全性評価を行う必要がある。そのためにはステンレス鋼の物性値の照射量依存性等の知見が不可欠である。照射材の物性の代表値や最確値等を議論するには既往データの整理が有効であり、その際、炉内構造物の使用条件が異なる沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉を明確に区別し取り扱うことが重要である。本調査では、照射ステンレス鋼の材料特性を評価した公開文献を網羅的に収集し、データ集を作成した。作成にあたっては、BWRに相応する温度や中性子照射等の条件をスクリーニングの基準として照射データを抽出するとともに、化学成分, 加工熱処理等の材料条件, 照射条件及び試験条件を調査した。これらのデータを物性値ごとにデータシートへ収録し、データ集として整備した。
藤田 峻也*; 阿部 豊*; 金子 暁子*; 湯淺 朋久*; 瀬川 智臣; 加藤 良幸; 川口 浩一; 石井 克典
Proceedings of 11th Korea-Japan Symposium on Nuclear Thermal Hydraulics and Safety (NTHAS-11) (Internet), 7 Pages, 2018/11
使用済燃料の再処理工程において、硝酸ウラニル・硝酸プルトニウム混合溶液をマイクロ波加熱脱硝法により、酸化ウラン・酸化プルトニウム混合酸化物粉末に転換しており、今後、量産規模の脱硝技術を開発する上で、マイクロ波加熱時の突沸及び噴きこぼれ防止のために運転条件の把握が求められる。本研究において、溶液の誘電率の増加に伴い熱伝導係数が低下することを明らかにした。また、噴き上げ現象においては気泡成長よりも無数の微小気泡の発生が支配的に影響を及ぼすと考えられる。
上澤 伸一郎; 小野 綾子; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
日本機械学会熱工学コンファレンス2018講演論文集(USB Flash Drive), 6 Pages, 2018/10
核沸騰による高効率除熱には限界があり、その限界熱流束(CHF)を超えると冷却体伝熱面温度は急激に上昇し、伝熱面が焼損することが知られている。そのCHFを向上させるためナノ粒子を流体へ添加したナノ流体が注目を集めている。そのCHF発生機構解明において、伝熱面上の乾き面の形成が主要因であると考えられており、伝熱面上に形成した析出ナノ粒子層がCHFを向上させていることが示唆されているが、ナノ流体における乾き面の動的挙動は十分に明らかにされていない。本報では、水深を浅くしたプール沸騰実験を実施し、沸騰面上部から乾き面の目視観察と伝熱面面裏側から赤外線カメラを用いた伝熱面温度瞬時分布計測の実施により、既存研究の析出層が付着しない場合のCHF発生機構と同様に、伝熱面上で乾き面が形成後、乾き面周囲への熱伝導量上昇に伴う沸騰活性化による高熱流束域形成により液損耗が激しくなり、乾き面が拡大し、ついにはCHFに至ることを明らかにした。
相馬 康孝; 小松 篤史; 上野 文義
材料と環境, 67(9), p.381 - 385, 2018/09
高温高圧高純度水中におけるステンレス鋼のすき間内で発生する局部腐食現象のメカニズムを解明するため、すき間内溶液の電気伝導率をIn-situ測定する手法(センサー)を開発し、すき間内環境と局部腐食との関係を分析した。センサーは、高純度アルミナで絶縁した直径約250mのステンレス鋼製電極をすき間形成材に埋め込み、電気化学インピーダンス法により、電極直下における局部的な溶液の電気伝導率、を取得するものである。SUS316Lステンレス鋼のテーパー付きすき間内に複数のセンサーを設置し、温度288C、圧力8MPa、純酸素飽和した高純度水中において、の時間変化を100h計測した。すき間幅約59.3mの位置ではは8-11S/cmであり、試験後に局部腐食は見られなかった。一方、すき間幅約4.4mの位置におけるは、実験開始直後から上昇を続け、約70hで最大値約1600S/cmを示し、試験後にこの位置近傍で粒界を起点とした局部腐食が発生したことを確認した。の最大値約1600S/cmは熱力学平衡計算によりpH約3-3.7に相当した。以上のことから、バルク水が高純度であってもすき間内においては溶液の酸性化が進行し、その結果、局部腐食が発生したと結論された。
上澤 伸一郎; 小野 綾子; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
第55回日本伝熱シンポジウム講演論文集(USB Flash Drive), 8 Pages, 2018/05
核沸騰による高効率除熱には限界があり、その限界熱流束(CHF)を超えると冷却体伝熱面温度は急激に上昇し、伝熱面が焼損することが知られている。その発生機構解明において、伝熱面上の乾き面の形成が主要因であることは示唆されているが、金属伝熱面における乾き面の動的挙動は明らかにされていない。本報では、水深を浅くしたプール沸騰実験を実施し、沸騰面上部から乾き面の目視観察と銅面裏側から赤外線カメラを用いた伝熱面温度瞬時分布計測の実施によって、伝熱面上で乾き面が形成後、乾き面周囲への熱伝導量上昇に伴う沸騰活性化による高熱流束域形成により液損耗が激しくなり、乾き面が拡大し、ついにはCHFに至ることを明らかにした。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
Thermal Science and Engineering, 25(4), p.65 - 74, 2017/10
福島第一原子力発電所事故において、炉心冷却維持のために海水が注入された。炉心が海水に晒されたことはこれまで経験がないことから、海水の沸騰熱伝達特性や、海水塩析出の可否、またその析出海水塩の冷却熱伝達に及ぼす影響についての理解が求められている。本研究では、海水プール核沸騰熱伝達実験を実施し、孤立気泡域,合体気泡域,伝熱面焼損時の局所の沸騰伝熱挙動を高速度ビデオカメラによる発泡挙動の撮影や赤外線カメラによる伝熱面温度分布の計測を実施し、海水と蒸留水の核沸騰素過程の違いについて議論した。その結果、海水沸騰では蒸留水に比べて、発泡数が少なくなるとともに、発泡する気泡の径が大きくなるなど、発泡挙動に違いが見られた。また、析出物が伝熱面上に形成された場合は微細な気泡が大量に発生することが確認された。さらに10.0wt%人工海水実験では海水塩析出物によって伝熱面温度が上昇し続け(伝熱面温度の逸走)、伝熱面平均温度が1000Cを超えたところで、伝熱面が焼損した。ただし、その伝熱面焼損は蒸留水実験のように局所の伝熱面温度の急上昇によって起きる現象ではなく、比較的緩やかな温度上昇を経て焼損した。このように海水の沸騰熱伝達は蒸留水とは異なっており、本実験結果は海水を使用した伝熱機器の安全性を考える上で重要な結果である。
勝山 仁哉; 山口 義仁; 根本 義之; 加治 芳行; 逢坂 正彦
Transactions of the 24th International Conference on Structural Mechanics in Reactor Technology (SMiRT-24) (USB Flash Drive), 11 Pages, 2017/08
東京電力福島第一原子力発電所のような沸騰水型原子炉(BWR)のRPV下部ヘッドは、形状が複雑で多数の制御棒案内管が存在するため、その破損挙動は複雑である。そこで我々は、重大事故時のBWR下部ヘッド破損について、クリープ損傷機構を考慮した熱流動構造連成解析に基づく評価手法を整備した。本研究では、事故シナリオの違いを想定し、溶融デブリの深さや発熱位置の違いが破損位置に及ぼす影響について評価した。その結果、BWR下部ヘッドの破損やデブリの流出は、貫通部における制御棒案内管やスタブ管で生じることを示した。
藤田 峻也*; 阿部 豊*; 金子 暁子*; 長南 史記*; 湯浅 朋久*; 八巻 辰徳*; 瀬川 智臣; 山田 美一
Proceedings of 25th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE-25) (CD-ROM), 8 Pages, 2017/07
核燃料サイクルにおける使用済み燃料の再処理の転換工程においてマイクロ波加熱脱硝法が使用されている。マイクロ波加熱では沸騰現象を伴うことから、突沸及び噴き零れを避ける運転条件を十分に把握する必要がある。マイクロ波加熱時の突沸現象を明らかにするため、突沸の発生について高速度カメラによる詳細な観察を実施した結果、マイクロ波照射により加熱が進行し単一気泡による突沸に至るケース、気泡の生成と停止が間欠的に起こり、最終的に単一気泡による突沸に至るケース、気泡生成を伴わず蒸発が進行するケースの3種類に分類できることを明らかにした。また、突沸を引き起こす単一気泡周辺の流れ構造の可視化に成功した。さらに、液体表面の微小気泡を観察し、その生成と成長に対する必要熱量とマイクロ波加熱に伴う放出熱量との比較評価を行い、突沸と微小気泡との関係性を明らかにした。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 永武 拓; 吉田 啓之
混相流, 31(2), p.162 - 170, 2017/06
東京電力福島第一原子力発電所事故では、非常用冷却水の注水・除熱機能が失われたため海水が注水された。しかし、炉内への海水注入は行われたことがなく、海水による燃料集合体の冷却は検討されていない。本研究では、海水を用いてプール核沸騰実験を実施し、伝熱面温度と伝熱面上の海水塩析出層厚さの測定を行い、海水塩析出物が核沸騰熱伝達へ与える影響について評価した。また、燃料棒と同様な寸法の内管加熱部を持つ鉛直二重管流路での上向き強制流動沸騰実験を実施し、海水の流動沸騰への影響についても議論した。その結果、高濃度の人工海水では、一定かつ低い熱流束であっても壁面過熱度が次第に増加し、既存の伝熱評価式から外れる、伝熱面温度の逸走が起きることを確認した。海水塩析出層厚さの測定から、この伝熱面温度の逸走は、伝熱面上に海水塩の1つである硫酸カルシウムが析出し、時間とともに析出層が厚くなることにより、表面までの熱抵抗が増加して起きる現象であると考えられる。また、海水塩濃度が高いほど、より低い熱流束で伝熱面温度の逸走が起きており、海水塩の伝熱面上での析出は、伝熱面近傍の海水塩濃度が関係すると考えられる。流動沸騰条件では、下流では海水の濃縮が進むため、下流の伝熱面にはプール核沸騰実験よりも低い熱流束で海水塩が析出し、伝熱面温度の逸走が発生することを確認した。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
第54回日本伝熱シンポジウム講演論文集(CD-ROM), 8 Pages, 2017/05
東京電力福島第一原子力発電所事故時の海水注入が伝熱流動へ与える影響を、その物理現象を含めて理解するため、海水及び蒸留水を用いてプール核沸騰実験を行い、プール核沸騰素過程に与える海水の影響について検討した。その結果、海水を用いた場合、沸騰核が減少した。この沸騰核の減少は、沸騰や二次気泡の形成、及び熱伝達表面の過熱度の増加に影響を及ぼすことを確認した。また、濃縮された海水では、海水塩析出層が伝熱面上に形成され、その厚さの増加に伴って熱抵抗が増加し、加熱面上の沸騰による冷却性能が大幅に低下することで、伝熱面が焼損することを確認した。これは、蒸留水での伝熱面焼損とは異なる物理機構であり、海水の場合は蒸留水よりも低い発熱量でも伝熱面が焼損する可能性がある。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
Thermal Science and Engineering, 25(2), p.17 - 26, 2017/04
東京電力福島第一原子力発電所事故時の海水注入が伝熱流動へ与える影響を理解するため、伝熱面上の海水塩析出物が沸騰熱伝達へ与える影響の把握を目的とした海水プール核沸騰熱伝達実験を実施した。また、伝熱面に析出物が伴うという共通点を持つナノ流体のプール核沸騰熱伝達実験も実施し、両流体の熱伝達機構の共通点と相違点について議論した。その結果、海水では特定の熱流束を境に一定の熱流束であるにもかかわらず、伝熱面温度が非定常に増加し、限界熱流束の低下が示された。ナノ流体については蒸留水よりも高い熱流束で伝熱面焼損を起こしており、既存研究と同様に限界熱流束の向上を示唆した結果が得られた。この違いは伝熱面上の析出物の構造の違いによるものと考えられる。海水の場合、析出物は熱伝導率の低い硫酸カルシウムであり、時間とともに析出層が厚くなることを確認された。その析出層厚さが増加することで熱抵抗が増加し、熱伝達率ならびに限界熱流束が低下したと考えられる。ナノ流体の場合には、伝熱面上にナノ粒子層が析出したが、その表面は、海水塩析出物とは異なり、多数のマイクロスケールの溝が形成されていることが確認された。その溝を通して液が伝熱面に供給されることで、限界熱流束が向上したと推定される。このように、海水とナノ流体では、共に析出物を伴う流体であっても、その析出物の構造の違いによって沸騰熱伝達へ与える影響は異なる。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
日本機械学会熱工学コンファレンス2016講演論文集(USB Flash Drive), 2 Pages, 2016/10
東京電力福島第一原子力発電所事故では、炉心冷却のため海水が注入されたことから、炉内状況を正確に把握するためには、海水塩析出物が沸騰熱伝達に与える影響の評価が求められる。本発表では、海水プール核沸騰実験を行い、海水塩析出物を伴う伝熱面の温度逸走開始後から伝熱面焼損に至るまでの伝熱特性に焦点を当て、海水塩析出が伝熱面焼損に与える影響について議論する。実験の結果、天然海水と同海水塩濃度の3.5wt%、それよりも高濃度の7wt%, 9wt%, 10wt%の人工海水において、伝熱面表面に海水塩である硫酸カルシウムが析出し成長することで、特定の熱流束より伝熱面温度が連続的に上昇し、最終的には伝熱面が焼損することを確認した。その伝熱面焼損に至る物理機構はこれまで確認されてきた、蒸留水の場合の様な核沸騰限界に起因するものではなく、析出物厚さの成長に伴う経時的熱伝導劣化による海水特有の機構であった。また、析出した硫酸カルシウム二水和物が熱伝導率の低い無水和物へ転移することが示唆され、その転移による熱伝導の劣化も伝熱面焼損に影響を与えていると考えらえる。このように海水沸騰では、蒸留水とは異なるメカニズムによって伝熱面焼損が起きると考えられ、蒸留水よりも低熱流束で伝熱面が焼損する要因であると推測される。
上野 文義; 入澤 恵理子; 加藤 千明; 五十嵐 誉廣; 山本 正弘; 阿部 仁
Proceedings of European Corrosion Congress 2016 (EUROCORR 2016) (USB Flash Drive), 7 Pages, 2016/09
本研究は、再処理施設における減圧式のステンレス鋼製濃縮缶の腐食に及ぼす沸騰硝酸の影響に着目した。腐食試験は、コールド模擬のために酸化性金属イオンとしてバナジウムを添加した硝酸溶液を用いて行った。減圧沸騰条件と常圧非沸騰条件で腐食試験を行い、腐食速度を比較した。その結果、同じ温度で溶液が沸騰した場合に非沸騰に比べて腐食速度が大きくなった。硝酸中でのバナジウムの酸化反応を調べた結果、沸騰中では硝酸によるバナジウムの4価から5価への酸化が進み、腐食が加速されることを明らかにした。
上澤 伸一郎; 小泉 安郎; 柴田 光彦; 吉田 啓之
第53回日本伝熱シンポジウム講演論文集(CD-ROM), 8 Pages, 2016/05
東京電力福島第一原子力発電所事故時の海水注入が伝熱流動へ与える影響を理解するため、伝熱面上の海水塩析出物が沸騰熱伝達へ与える影響の把握を目的とした海水プール核沸騰熱伝達実験を実施した。また、伝熱面に析出物が伴うという共通点を持つナノ流体のプール核沸騰熱伝達実験も実施し、両流体の熱伝達機構の共通点と相違点について議論した。その結果、海水は蒸留水と同等の熱流束で、伝熱面が伝熱面焼損した一方で、ナノ流体については蒸留水よりも高い熱流束で伝熱面焼損を起こしており、限界熱流束の向上を示唆した結果が得られた。この要因として、伝熱面上に析出したナノ粒子層の表面に存在する多数のマイクロスケールの溝によって、より多くの液が伝熱面に供給されたためと推定される。対して、海水では特定の熱流束を境に一定の熱流束であるにもかかわらず,伝熱面温度が非定常に増加した。これは海水塩として析出した硫酸カルシウムの熱伝導率が低く、その析出物が伝熱面上で成長し、厚くなるからである。このように、共に析出物を伴う流体であっても、海水とナノ流体では沸騰熱伝達へ与える影響は異なる。特に海水では、伝熱面に析出する海水塩によって熱伝達率が小さくなることが明らかにされた。